第12話 婚約式
四年前、咲子が飯田家に戻ってきたとき、飯田家の誰もが咲子を中心に回っていた。
おばあちゃんが、おばあちゃんだけが夏帆のことを気にかけ、双方の対立を回避するために、夏帆を古い屋敷に来て、おばあちゃん一緒に暮らすような提案もした。
しかし、ハメられる運命には逃れながった。
当時、彼女は首飾りを盗んだという濡れ衣を着せられたとき、飯田家の人間と木村雅也が、咲子の見方をし、彼女こそが泥棒であると証言した。
彼女を信じていたのはおばあちゃんだけだった。
しかし、高藤家の力が強すぎて、おばあちゃんがどんなに頑張っても、結局彼女を守ることはできなかった。
飯田孝太の話によれば、今回彼女が早く出所できたのは、おばあちゃんが頑張った結果だった。
80歳になるおばあちゃんが、病気のある体を引きずりながら、彼女を助けるために走り回っていることを思うと、彼女の涙が止まらなくなった。
飯田綾は、そんな夏帆を優しく抱きしめ、まるで幼い頃のように、優しく背中を撫でながら言った。
「…よしよし。よく頑張ったね。もう大丈夫。もう、二度とつらい目には遭わせないからね」
「…おいおい、泣きすぎだろう。俺たちがいじめたように見えるよ」
呆れたような口調で、飯田孝太が言った。
——いじめてないとでも?
雨宮夏帆は、涙に濡れた目を上げ、彼をじっと見つめた。
…昨日のバーでの出来事を、もう忘れたのか?
そんな彼女の視線に、飯田綾は気づいた。そして、孫の顔の傷を見た瞬間、表情を険しくした。
「…本当にいじめてないの?だったら、夏帆の顔や頭にあった傷はどうやってできたの?これは新しくできた傷だって、ばあちゃんにはわかるからね!」
「見えるところですらこうなってるから、見えないところにも別の傷があるんじゃないの?」
その言葉を聞いた飯田家の面々は、一斉に沈黙した。
誰も、この四年間、彼女が受けた地獄のような苦しみを口にすることはできなかった。
おばあちゃんを刺激するような行為だからな。
特に、昨夜の事件の張本人である飯田咲子は、震えながら俯いていた。
夏帆の新たな傷が自分のせいだとおばあちゃんに知られることを恐れているからだ。
飯田孝太や飯田美沙を騙すことはできるけど、
この厳しく賢いおばあちゃんの前では、嘘は通用しないんだ。
それに、この女はいつも夏帆のことばっかりで、彼女にはいつも塩対応を取る。
彼女はそれに羨ましくて、憎たらしかった。
飯田美沙は、気まずい雰囲気を変えるように、話題を変えた。
「…あの、母さん。夏帆も無事に出所したことだし、そろそろ咲子と雅也の婚約式に出席してもらえませんか?」
「そんなの、急ぐことか?まだ日にちもきまってないのに!」
飯田綾は、眉をひそめた。
「母さんがずっと出席を引き延ばすから、話が進まないんです。出席さえ決まっていれば、婚約式はとっくに済ませたのに」
「夏帆のことを思っているのは知っていますけど、これ以上引き延ばせば、咲子がアラサーになっちゃいますよ?お母さんがうなずきさえすれば、いつでも開くことができるのです」
飯田綾は鼻で笑った。
「だったら勝手にやればいいんじゃない? どうせ私は棺桶に片足を突っ込んだ年寄りだ。私の意見なんて、どうでもいいでしょう?」
「お母さん、何を言ってますの? 私たちはみんな、あなたを尊敬していますよ。こんな大事な婚約式に、お母さんが出席しなかったら、飯田家が京区の笑い者になってしまいますわ!」
飯田綾は、冷たい視線で家族を見渡した。
「笑い者にされる?そんなことより、私は夏帆の方がずっと大事よ!この四年間、お前たちは咲子のことばっかり気にして、私の夏帆に気にかけたりしなかったじゃない!」
「このことを使って引き延ばさなかったら、お前たちは本気で夏帆を助け出そうとしたのか?」