第9話 真相
助けが来たのを見て、呆然としていた飯田咲子は「わぁっ」と大声で泣き出した!
涙で濡れたその姿は、いかにもひどく傷ついたように見えた。
「咲子、もう大丈夫だ。俺が来たからな!」
飯田孝太はすぐに咲子を抱き寄せ、背中を優しく叩いて慰めた。
その一方で、彼の鋭い黒い瞳は雨宮夏帆を鋭く睨みつけ、まるで彼女の顔に穴を開けようとしているかのようだった。
上原明美は自分の腫れ上がった顔を押さえながら、被害者を装うように叫んだ。
「孝太お兄さん、さっき送った動画、見ましたよね!」
「雨宮夏帆はずっと個室で咲子を責めていました。彼女は咲子を恨んでいて、それで階段から突き落としたんです!」
「この女は、咲子を殺しかけただけじゃなく、私の顔まで殴ったんです。見てくださいよ、この腫れ!」
飯田咲子は嗚咽を漏らしながら、途切れ途切れに言葉を紡いだ。
「私は…お姉様を責めるつもりなんてないの。でも…でも…」
「でも、人を殴るなんて…明美は私の親友なのに、彼女を殴るってことは、私を殴るのと同じだよ…私、すごく悲しい…」
彼女の涙と震える声は、その場の全員に「雨宮夏帆が本当に罪を犯した」かのような印象を与えた。
しかし――
雨宮夏帆は、冷ややかな視線で彼女たちを見ていた。
上原明美と飯田咲子が必死に彼女を陥れようとしているのとは対照的に、彼女は驚くほど冷静だった。
飯田孝太は険しい表情で問い詰めた。
「本当なのか? 雨宮夏帆、お前は咲子を殺そうとしたのか? 本当のことを言え!」
雨宮夏帆は、嘲笑するように口元を歪めた。
「私が違うって言ったら、信じる? どうせ信じないでしょう? だったら、いくら本当のことを言っても無駄よね?」
彼女の言葉は、静かに、しかし鋭く心に突き刺さるものだった。
四年前のあの日と同じように、またしても彼女は不当に責められていた。
飯田孝太の唇が震えた。
彼の心の中で燃え上がっていた怒りは、いつの間にか言葉にならない苦しみに変わっていた。
彼は怒鳴ることさえできなかった。
よく見れば――
夏帆の方が、明らかに酷い怪我を負っていた。
両頬は殴られたように青紫に腫れ、額には真新しい血の跡があった。
昔の彼女なら、この程度の傷でもすぐに泣きついてきたはずだ。
「痛いよ、お兄ちゃん…」と甘えて、彼が慰めるまで泣き止まなかっただろう。
だが今の彼女は違う。
一言も泣き言を言わず、まるで死んでも屈しないかのような強さを持っていた。
その変化を見て、彼の胸は締め付けられるように痛んだ。
沈黙を破るように、夏帆は飯田咲子を見据え、冷たく言った。
「結局、四年前と同じね。どうしてそこまでして私を陥れようとするの?」
「私はもう十分に苦しんだでしょう? それなのに、まだ足りないって言うの?」
飯田咲子は、一瞬だけ目を泳がせた。
「違う…私は、お姉様を陥れたりなんてしてません…」
「ふん、してるかしてないか、もうどうでもいいわ。私は二度と、四年前みたいに黙って耐えたりしない」
夏帆は、飯田孝太に目を向けた。
「信じるかどうかは勝手よ。でも、一度だけ言っておくわ」
「あなたの大事な妹が階段から落ちたのは、私が人間クッションになったから助かったの」
「信じないなら、私の頭の傷を見ればいい。あるいは、その監視カメラの映像を確認すればいいわ」
「四年前のように、あなたが私を罪に陥れたとしても、今の私に同じような手段が通用すると思ってるなら大間違いよ!」