第7話 謝りなさい!
電話を切ったあと、安澄の頭の中はぐるぐるしていて、すぐには整理が追いつかなかった。
おじいさんとおばあさん…もう知ってるの?
しかも、おばあさん、発作を起こしたって…?
急に心配になってきた。
結婚してからというもの、桜井家の祖父母は、翔真よりもずっと彼女のことを気にかけてくれて、本当の孫の嫁として大事にしてくれた。
何度か会ったときも、いつも優しくしてくれて、あたたかく迎えてくれた。
だから、これまでのことは何も話さずにきた。おばあさんの体が弱いのは知っていたし、何かあってはいけないと思って。
なのに、結局、知られてしまったんだ。
どうか、無事でいてくれますように。
「にこ、どうしたの?」
紗那が安澄の表情に気づいて、やわらかく声をかけた。
安澄は少しだけ迷ったあとで、翔真のおじいさんとおばあさんが今夜来ることを母に伝えた。
それを聞いて、紗那は眉をひそめた。
「桜井が今朝、慌てて出て行ったのって…まさか、おばあさんの発作が原因だったの?」
でも、ほんの一瞬そう考えただけで、すぐに表情が険しくなった。
「まあ、理由がなんであれ、桜井みたいな男はダメよ。にこ、今夜おじいさんとおばあさんが来ても、気持ち揺らがないで。離婚はちゃんと進めましょ。あなたにはこれから、もっともっと素敵な人生が待ってるんだから。あんな男に足引っ張られちゃダメ!」
安澄は母の顔を見つめた。
ママがいてくれてよかった。
れしくて、心があったかくなった。やっと、自分の居場所を見つけた気がした。
夜になって、桜井家の祖父母がやって来た。翔真も一緒だった。
部屋に入ってきた祖父母は、まず安澄のほうを見た。
安澄は産後用の部屋着のまま、ベッドの背にもたれて座っていて、腕の中には赤ちゃんがいた。
その姿を見て、二人はうれしさと切なさが入り混じった表情を浮かべた。
「翔真!すぐにお嫁さんに謝りなさい!」
ベッドのそばまで歩いてきたおばあさんが、くるっと振り返り、孫をにらみつけて怒鳴った。
えっ…謝れって?
安澄は驚いた。まさか、おばあさんが翔真に謝らせようとしているなんて。
翔真は安澄をじっと見つめた。
安澄も、翔真を見返す。
数秒の沈黙のあと、翔真が口を開いた。
「ごめん」
その瞬間、おばあさんが杖を振り上げ、バシッと翔真の足を叩いた。
「頭を下げなさい!」
謝るのに、なんでそんなに偉そうなの?
ちゃんと頭を下げて謝らないと、誠意なんて伝わらないでしょ!
いきなり叩かれた翔真は、目を見開いてびっくりして、おばあさんのほうを見た。
でも、おばあさんはさらに一喝。
「何よ、その顔。大きくなったからって、ばあばがあんたを叩いちゃいけないっての?」
「さっさと謝りなさい!」
今度は冷たい口調で、きっぱりと続けた。
「ちゃんと、心からね!」
翔真は内心ムッとしていたけど、逆らえるわけもなく、しぶしぶ安澄の方を見て、ゆっくり頭を下げながら言った。
「安澄、ごめんなさい!」
その言葉を聞いたおばあちゃんは、「ふんっ」と二度鼻を鳴らして、少しだけ満足げな顔を見せた。