第12話 えこひいき
拓は朝倉会社の社長として財界ニュースにたびたび登場しており、その端正な容貌や家柄、スキャンダルのない生活から「生まれながらの小説の主人公」と呼ばれるほどの人気を誇っている。
一方、安部玲奈は美しい容姿と成功したキャリアを持ち、海外での活躍も評価されている。二人はまさにお似合いのカップルだとされていた。
さらに、サクラの導きによって、ネットユーザーたちは次々に祝福の言葉を送り、一部のファンは二人を「カップル」として応援し始めた。
そしてすぐに「カップルスレッド」が設立され、「#タクレイ夫婦」と名付けられた。
短時間で、そのスレッドのフォロワー数は数万人に急増した。
ファンのライターは二人の感動的なラブストーリーを書き上げ、イラストレーターのファンは彼らをモデルにしたカップルのアイコンや可愛いデフォルメイラストを描いた。動画編集者たちは、玲奈が出演したドラマと拓の経済ニュース映像を組み合わせ、二人の関係を盛り上げる内容を次々と公開した。
泉はそのスレッドを開いてみた。中には、あるファンの名前が「今日は拓と玲奈が結婚したか?」というものまであった。
カップルファンは、あらゆる事象から匂わせを見つけ出すのに熱心だ。
彼らは、玲奈が海外に出た後も拓がずっと独身を貫き、スキャンダルもなかったのは、彼女が帰国するのを待っていたからだと推測していた。
「最高すぎる!」
とファンたちは熱狂していた。
だが、泉にとっては、これらの言葉は鋭い刃のように胸を突き刺し、心に深い傷を与えていた。
彼女の手はスマートフォンを握りながら震え、喉が詰まるような感覚を覚えた。
自分が正妻なのに。
この行動が、私をどれほど傷つけるって思ってないの?
泉は深呼吸をし、スマートフォンを閉じて社長室に向かった。
ドアの前で少しの間立ち止まり、意を決してノックをした。
「入れ」
中から拓の声が聞こえた。
泉はドアを開けて中に入り、デスクの前に立ち、真剣な表情で言った。
「社長、今回のトレンド対応について、広報部の処理は不適切だと思います」
拓は冷たい目で泉を見つめ、
「どこが不適切だ?言ってみろ」
「今回の件で、MQブランドは完全に玲奈と結びつけられることになります。ブランドの発展において方向性や計画が一致しません」
泉の指摘は客観的に正しい。ネット上ではすでに「玲奈=MQのオーナー夫人」という印象が定着しつつあり、今後MQと言えば彼女が連想されるだろう。
しかし、それ以上に泉の心は複雑だった。自分の努力が玲奈と結びつけられること、それに加えて彼女と嫌々ながらも協力しなければならない現実を受け入れるのは耐えがたいものだった。
「それが本心か?それとも、MQの話はただの言い訳で、自分の計画が失敗したことを認めたくないだけじゃないのか?」
泉は目を見開き、驚きの表情で拓を見つめた。
「どういう意味ですか?」
「今回のトレンドはあなたが仕組んだものではないのか?スポンサーとの関係を匂わせることが、玲奈のキャリアにどれほどの影響を与えるか、分かってるだろう」
泉の頭は混乱し、信じられない思いで問い返した。
「つまり、この件は私がやったと?そう思っているんですか?」
「違うのか?協議書の条件に不満があるなら直接言えばいいものを、どうしてこんな卑劣な手段を使う?玲奈は何も悪くないんだ」
玲奈が二人の間に介入しておきながら「無実」であり、泉が第三者の存在を明らかにすれば「卑劣」だとされる。しかも、今回の件は彼女の仕業ではなかった。
彼は初めから玲奈に傾いていた。正しい行動を取っていても、決して支持してくれないだろう。
泉の胸は重く叩かれたように痛み、息苦しささえ覚えた。
唇を震わせながら言葉が出ない。
拓の心の中で、自分がこのような存在だとは思わなかった。
三年の夫婦生活で、彼はこれほどまでに自分を誤解していたのだ。
「どうした?言葉が出ないのか?次は僕たちが結婚していることを暴露し、玲奈を第三者扱いするつもりか?彼女の評判を永久に落とす気か?」
泉は心を抉られるような苦しみを感じ、震える声で息を吸い込んだ後、冷笑して言った。
「彼女は第三者じゃないの?」
拓は黙り込んだ。
「結婚するとき、あなたは爺さんと婆さんに何を約束した?そして、実際にはどうしたの?」
泉の目に涙が浮かぶ。
「もし、当時あなたが玲奈を忘れられないと言っていたら、私は絶対に結婚なんてしなかった!」
「私は朝倉泉という人間だよ。どうしてあなたにこんなに踏みにじられなきゃの?」
「今、あなたたちを成就させようとしている。それでも足りないの?拓、もし私が本気で彼女を潰そうと思えば、方法なんていくらでもある!」