第6話 しっかり教えてあげる!
電話口で小川佑希の部長である富田仁美は、泉の声を聞くなり激しい口調でまくし立てた。
「朝倉部長、もし小川さんの格が朝倉会社に合わないと思うなら、最初からそう言えばいい!絶対にあなたたちのアンバサダーをやらなきゃいけないわけじゃないんだから!今になって、他の仕事を断った後で、突然変更するなんて、ふざけてるわね!この件、説明してもらわないと気が済まないわ!」
「富田さん、落ち着いてください。うちのアンバサダーは佑希さんで決定しています。変更するなんてあり得ません」
「へぇ?でもね、広報部の部長が直接電話してきて、変更すると言ってきたのよ!」
泉は一瞬黙り込んだ。
「富田さん、この件はすぐに調べて、佑希さんにきちんと説明します」
電話を切った後、泉の表情は険しくなり、そのまま広報部へと向かった。彼女の足元のハイヒールが硬い床を鳴らし、鋭い音を響かせた。
朝倉氏に入社してこの3年間、広報部部長の松井利恵は彼女の邪魔をすることが少なくなかった。
「これは面白いことになりそうだ」
社員たちは彼女の気迫に満ちた様子を見て、小声で話し合っていた。
「広報部の松井部長と朝倉部長は前から仲が悪いからな」
泉は直接広報部部長のオフィスに乗り込んだ。
「松井さん、小川佑希のアンバサダーの件、どういうことか説明して!」
松井利恵は泉が来ても驚くことなく、腕を組みながらゆっくりと歩み寄った。
「朝倉部長、そんなに怒らなくてもいいでしょう?座って話しましょうよ」
「そんなごまかしは通用しないわ。MQの計画は会長も承認済み。あなたが勝手に手を出す権利はない!」
松井利恵は一歩も引かず、不敵に笑った。
「勝手に手を出したらどうなるの?何ができるっていうの?あなたなんて、早死にした父のおかげで朝倉家に入り込んだだけでしょう?自分の立場をわきまえなさいよ!」
泉は冷ややかな視線で彼女を見つめ、
「私がどうやってこの地位に就いたか、あなたにとやかく言われる筋合いはない」
彼女は父親を侮辱されることを絶対に許さなかった。
周囲の社員たちはすでに二人のやり取りに注目し始め、視線がパソコン画面から二人の様子へと移っていった。
「何?私の言ってることは事実でしょう?同情を引いて朝倉家に入ってきたのは誰?会長を誘惑してるのは誰?」
松井利恵は冷笑しながら、嘲るような目で泉を見つめた。
彼女は何度も泉が拓の車から降りるところを目撃していたし、泉が拓のオフィスを頻繁に訪れるのも見ていた。
調べてみると、泉は田舎の出身で、朝倉家の会長が彼女の父親から肝臓を提供されたことで朝倉家に受け入れられたに過ぎないことが分かった。それでも拓に接近し続けて、恋人の地位を得ようとするなんて、まったく呆れたものだ。
松井利恵の目には嫉妬の色が浮かんでいた。そしてさらに言葉を続けた。
「でも残念ね、安部さんが戻ってきたのよ。社長はあなたなんかもう眼中にない!あなたの死んだ父がこれを見たら…」
「パシン――」
周囲は一瞬の静寂に包まれ、その音が耳に刺さるほど響いた。
社員たちは息を呑み、互いに目を合わせるだけだった。
松井利恵は頬を押さえ、信じられないという表情で泉を睨みつけ、歯を食いしばった。
「あんた!殴るなんて!こうしても言うよ。こんな恥知らずな娘を持ったせいで、あんたの父が早死にしたのよ。彼はもっと早く...」
「礼儀を知らないなら、私がしっかり教えてあげる!」
泉の声は冷ややかで、一言一言が鋭く響いた。
そう言い終わるや否や、彼女は手を振り上げ、松井利恵に向けて振り下ろした。
だが、その平手打ちは松井利恵の頬に届かなかった。
寸前のところで、誰かが泉の手首を掴んだからだ。
泉は冷たい視線でその手を振りほどこうとしたが、解けなかった。苛立った様子で振り返ると、思わず驚きの声を漏らした。
「社長」